Personnel Position
人事のすがお
人事インタビュー「人事のすがお」vol.4
株式会社ワットマン
人材開発グループ グループ長 次長 倉谷 尚雄様
1972年9月生まれ。
1995年大学卒業後、総合商社で営業職、出版社で漫画編集者、その後、株式会社サンレジャー(映像・音楽の販売及びレンタル店舗の運営)にて店長、本部のバイヤー等を経て、2010年、株式会社ワットマンに入社。
趣味は音楽鑑賞とCD収集。休日は、アウトドア(キャンプ)を楽しんでいます。主戦場は富士山のふもとにある「ふもとっぱらキャンプ場」。
神奈川県川崎市在住。
[ 取材: 2023年3月 ]
四分一:今日は宜しくお願い致します。まず、倉谷さんのご経歴をお伺い致します。 |
倉谷: ◆和歌山生まれ。大学卒業後、4社目がワットマン。 出身は和歌山県和歌山市です。駅を降りれば、街を全てが見渡せるほど高いビルなどない、海と山に囲まれた田舎に生まれまして、高校まで和歌山で育ち、大学で東京に来ました。 私は今の会社で4社目なんですが、大学を出て新卒で入社した1社目は東京の商社で、法人営業を3年間担当し、個人ノルマのあるような営業をガンガンやっていました。 2社目で出版社に転職をして、漫画の編集をやっていまして、原稿が上がるまで先生のところに2か月ぐらいずーっと泊っているような、昔でいう「ザ・編集者」って感じで(笑)。お正月も漫画家の先生と一緒に過ごし、原稿が完成したらお互い抱き合うみたいな(笑)。小池一夫が主宰していた「ALBA」というゴルフ雑誌を作っている出版社でした。そこで1年間出版やデザインなどを勉強しました。 そのうち、もっと人(エンドのお客様)とコミュニケーションを取る仕事をしたくなり、DVDやCDを販売・レンタルしている会社に転職します。初めは店舗スタッフとして入社して、その後店長になり、次に本部でサウンドバイヤーになります。 ◆趣味は音楽、そして収集癖も 元々音楽が大好きで、プレイをするというより、収集家というか…。DLのご時世なのにいまだにCDを買い続けていて、家に3,000枚ぐらい、お気に入りのジャケや推しのCDをしっかりディスプレイしています。下手な田舎のCDショップよりも在庫があるんじゃないでしょうか(笑)。 |
四分一:ほおーそれはすごい! どんなジャンルがお好きなんですか? |
倉谷: 洋楽ロックが好きです。今も最新のバンドを追いかけています。その中で、ロックの源流に興味を持って、辿っていった結果、ビートルズやソウル系のアーティストとかに興味を持ち、じゃあそういう音楽はどこに影響を受けているかというところから、ジャズやクラシックにも興味を持って、気づいたら部屋がCDだらけ。今でも中古CDショップなんかに行っていて、掘り出し物を見つけることに喜びを感じています。今、車通勤なんですが、車の中でガンガン音楽をかけるのがストレス発散になっています(笑)。 ◆TSUTAYAに出向、幅広い業務を担当 サンレジャー入社後、しばらくしてTSUTAYAに出向することになり(事務局注:株式会社サンレジャーは2005年9月にCCCと業務提携を結びTSUTAYAのフランチャイジーに)、音楽CDのバイヤーからお酒のバイヤー等も担当しました。当時はレンタルショップにお酒を置くというのは非常に珍しく、NHKの朝の全国ニュースにも取り上げてもらったことがあります。映画を観ながらお酒を飲むというライフスタイルを意識してもらうよう、カウンター付近にお酒を並べたりしました。 また、音楽の知識を活かして、バイヤー向けに音楽についての研修を担当したこともあります。例えば「世界で一番売れたアルバムは?」みたいな(笑)。それが現在のワットマンでの研修にもつながったかも知れないですね。 ◆30代半ばで一旦和歌山の実家へ。しかし… 私は長男でして、親から「実家にそろそろ帰ってきてほしい」と言われたことがありました。35か36歳ぐらいの時です。それで一旦帰ってみたんですが、和歌山には自分がやりたい仕事がなかなか見つからなくて…。人生設計について、悩み始めていました。ただ、実際は同時進行で和歌山と東京・神奈川の両方で仕事を探していて、「エンドユーザーのお客様と接する仕事がしたい」と思っていたところに、ワットマンという会社を見つけまして、入社することになりました。もう一度、上場企業で、自分が力を試せる仕事をするということにも挑戦したかったんです。 ◆いよいよワットマンに入社 ワットマンでは1スタッフからの再スタートでした。スタッフを1年経験後、2年目で店長に昇進、その後、会社全体のプロジェクト等でちょくちょく本社から声をかけて頂く機会が増えた頃、「本社で営業をやってみないか」いう話があったんです。今日の四分一さんとのインタビューもそうですが、いつもどなたかから声をかけて頂くという機会に恵まれていて、本当に感謝しています。これからも人とのご縁を大切にしていきたいと思っています。 ◆店舗から本社へ、営業企画グループで奮闘 本社では営業企画グループで4年ほど仕事をしました。ワットマンは、お客様から買い取りをしてそれをメンテナンスし販売するという「リユース」の会社なのですが、売り上げの最大化を考えると待ちの姿勢だけでは業績は伸びていかないので、他業種と提携する企画を考えるという業務を任されました。某有名アパレルとのコラボ企画とかですね。例えば、あるアパレルブランドでは着なくなった商品を持ち込むと店舗で使えるクーポンをお渡しするというサービスを行っていたんですが、じゃあお客様が持ち込んだ古着をどうすればいいかというノウハウがなくお困りだということを聞いたんですね。そのアパレルブランドショップで引きとった古着や靴等は、まだまだリユースして必要とするお客様に提供できる素敵なお品物ばかりで、弊社店舗に出したらお客様に十分喜んで頂ける価値があるものばかり。まさに「捨てるのはもったいないお宝ブランド」だったんです(笑) そこでワットマンに何ができるかを考えた時に、まずそのアパレルブランドショップで引き取った古着や靴をまとめて仕入れさせて頂き、そこで代金をお支払いするというのではなく、「その代金を御社に代わりNPO法人に寄付させて頂きます」というスキームを作りました。全国数百店舗からの回収から寄付手続き代行まで全て弊社が行い、その取引は今も継続しています。 ◆2016年 後の社長の直オファーで未経験の人事の仕事に 営業企画でそういったチャレンジを行っていくうちに、ワットマンは仕入れチャネルの拡大等で営業力はつき始めましたが、その一方、会社として、人を育成する仕組みを体系化しないと、これからの成長はないという現状の問題点を解決する必要がありました。そして、2014年に入社した役員(現社長)から、「社員の成長を促す、教育の仕組みを作るため、新しく人材開発グループを立ち上げることにしたから、この部署を自分と一緒に進めてほしい」と、私に声がかかったんです。 ◆「人材開発グループ」が人事と統合、「人事総務グループ」へ 2016年4月に立ち上げた人材開発グループは、役員以外のスタッフは私1人でした(笑) その頃、既に「経営理念」というものはあったのですが、パート・アルバイトさんに全くささらない内容で、聞いてみても誰も答えられないという状況でした。なので、まず経営理念、ワットマンでは「わたしたちのこころざし」というのですが、「ニチジョウをミタス」というこころざしを、役員と共に、パート・アルバイト含めた全スタッフに浸透させることから始めました。そして、2019年からは人材開発と人事を合わせた「人事・総務グループ」という部署となり、私はその全体のグループ長として、人事も見ることになりました。 |
四分一:その頃、ワットマンさんの従業員数はどれぐらいだったんですか? |
倉谷:パート・アルバイトも含め400名強でした。店舗数は約40店舗ぐらいでしょうか。今は、国内55店舗、海外5店舗ですが、国内の店舗は全て神奈川県にあります。 |
四分一:人事・総務グループ長時代、いろいろな課題に取り組まれたと思うんですが、代表的なものをご紹介いただけますか? |
倉谷:まず採用・配置・育成・評価に関わる人材マネジメント施策の整備に取り掛かりました。例えば育成面では、40種類以上ある研修を全て内製化したことなどです。 |
四分一:外部のコンサルは入れなかったんですか? |
倉谷:はい、全て自社で作り上げました。 |
四分一:それはすごいですね。具体的にはどのようなことから始められたのですか? |
倉谷:大きく2つあるのですが、まず1つ目は採用と人材戦略です。今までは形だけの採用計画を元に採用していたところ、人材要件定義(役割と責任)を各職種別に明確にし、年間要員計画を各店舗に設定してから採用をスタートさせました。また、店舗スタッフで採用された社員が次のキャリアアップへの道筋がつけられるように、全ての役職をチャレンジポジションにしました。立候補したらそれに挑戦できる権利があるということを周知させました。 もう1つは、人事インフラの整備・残業対策です。これは営業の責任者と連携して作ったんですが、「デイリーワークスケージュール」というポジション表によって、1人1人の時間ごとのスケジュールを予め設定し、生産性の向上、残業も大幅に削減することができました。また、人材マネジメント施策が体系化する前は、離職率が20数%と高かったため、例えば「スピークアップ制度」という施策では、従業員が気軽に電話で相談できるようなハラスメント対策専用ダイヤルを設け、自分がその窓口になる等、様々な企画を導入してきました。 |
四分一:倉谷さんはすごくいろいろなことをやってこられたんですね。今、人事部門のスタッフはどれぐらいになったんですか? |
倉谷:今、自分の他には女性社員が1名、パート・アルバイト2名であわせて4名で563名の社員を見ているという体制です。 |
四分一:563名の社員を4名で? |
倉谷:はい、ちょっと大変なんですけど(笑)。 |
四分一:給与関係も社内でやっておられるんですか? |
倉谷:全部です(笑)。 |
四分一:こういった業種ですと、アルバイトやパートさんの入退社もあるんじゃないですか? |
倉谷:去年、今まで紙ベースで行ってきた勤怠・給与関係の業務を全てクラウド化(4~5社の中から新システムを採用)したことで、各人がスマホで勤怠管理ができるようになり、店長の人事労務の時間を大幅に削減することができました。「店舗で印刷し、それをFAXで本社に送信し、人事で入力する…」という生産性の低い業務の流れが、この新システムを導入したことで不要になりました。結果的に大きなコスト削減にも繋がり、人事スタッフ4人でも回せています。 実はこれ、以前人事プロデューサークラブでそういったHRクラウドの事例を聞いて、いよいよ、これはやらなきゃと思って導入したんですよ(笑)。 |
四分一:これだけいろいろ進められてきた中で、倉谷さんが一番効果があったなと思う施策はどんなことでしたか? |
倉谷:先ほども申し上げた、採用・配置・育成・評価のサイクルの中で、「評価」を明確にすることが離職率の低下につながったと感じています。それまでの評価は、小売業でありがちな業績偏重型で、従業員の士気の低下を見逃していたんじゃないかなと。そこで、「ワットマンはあなたのこういうところを評価しますよ」と、評価基準を明確化し従業員に発信しました。まず、「業務遂行力」「人材育成力」「改革改善力」という3つのコアスキルを大切にするということ、その3つのコアスキルに対して職位ごとに40ぐらいに絞った評価項目を設けます。これって、逆に細かすぎても管理が大変なので。そのように、従業員に「ここを評価します」という点を明確にした後、それをまず本人が自己評価し→上司が評価し→上司は、役員の前で部下をプレゼンするオープンな評価会議を行います。そうして1人1人の社員に対し時間をかけて良い点・改善点について話し合い、全員の意見が一致することで、最終の評価を決定します。その後、上司はその評価会議の内容を部下に時間をかけてフィードバック面談をする…という流れで進めたところ、社員から見て「ここを改善すれば今度は評価が上がる、成長できる」ということが明確となり、納得感が得られたことで、離職率の低下につながりました。 |
四分一:実際、離職率の数値でいうとどれぐらい下がったのですか? |
倉谷:私が人材開発グループに入りかけだった2017年の離職率が22%だったのが、昨年度では4%まで下がりました。様々な人事マネジメント施策を取り入れていく中で、22%→12%→4%と、毎年、下がっていきました。 |
四分一:それはすごいですね!店舗運営されていると、ノウハウを持った社員がやめてしまう、じゃあ補充しなきゃということでお困りの企業様も多いと思います。離職率の改善というのは、コスト面だけでなく非常に大きなメリットがありますよね。 |
倉谷:実は、パート・アルバイトの離職率も下がってきているんです。パート・アルバイトには社員と違って評価会議はないのですが、半年に1回しっかりした面談を行っていて、1年に1回の社員登用チャンスを半年に1回にしたところ、結構手を挙げてくれる人がいるんです。これも、エージェントへの紹介手数料を考えるとコストがかからないというメリットもあるのですが、ワットマンという会社をよくわかっているパート・アルバイトさんが入社して下さるわけで、このことが本当に嬉しくて。費用だけでなく会社への業績貢献はもちろん、育成面でも効果があると思っています。 |
四分一:評価のフィードバックって、最初は、現場のマネージャーさんなど「めんどくさいな」という抵抗があったりするじゃないですか。このあたりはどうでしたか? |
倉谷:最初はやはり現場の店長から大変だという意見を頂きました。しかし、ワットマンの「こころざし」(経営理念)の「ニチジョウをミタス」を理解して頂き、1つは、我々は社会に貢献する企業であること、もう1つはこの会社に入った人は「天職」だと思ってほしいということ、そんな社員の成長を実現するためにも、評価は大切なんだということを、時間をかけて丁寧に説明しました。その研修には複数の店舗を統括するエリア長にも参加してもらい、まず社長からの話で「こころざし」を全員に浸透させました。重要なのは役員までも巻き込んで「1人1人の成長のため、これが必要なのだ」と、社員に理解してもらうことじゃないでしょうか。 |
四分一:まず、「企業として目指すもの」「企業としての存在価値」があり、そのために社員の成長や評価が必要になるという背景を、しっかり理解してもらうことが大切ですよね。 |
倉谷:そうですね。「こころざし」(経営理念)が根本にあって、それを社員に理解してもらうことからぶれちゃいけない、弊社は経営陣がそういった信念を持っていますからね。私は社長直下の部署なので、すぐ近くに社長がいて何でも話せる環境です。そうした風通しの良さもこの会社のいいところかなと思っています。 |
四分一:そんな倉谷さんが人事として大事にしていることは何ですか? |
倉谷:前回の事例研究会でもお話させて頂いたんですが、従業員のエンゲージメントでしょうか。これは本当に大事に考えています。今、いろんな調査で、日本人は仕事に対する熱意が低迷していると聞きます。それって、ワットマンにもあるんじゃないかという危機感がありました。ここ2年ぐらいは、従業員のエンゲージメントを高める企画に全力投球してきました。 まず1つ目は、エンゲージメントサーベイです。マイクロソフトのアプリを使って、職場の環境について、自身のキャリアについて、この会社のいいところ、改善してほしいところ…などのアンケートを社員に実施しています。今年度から役員に対する質問も加えました。若い社員はスマホでポチれるこのフォームが気軽に回答できるらしく、「実はあの新店の店長をやってみたい」とか、匿名性があるので本音を話してくれるんですよね。もちろん、この結果は社長にも公開していません。 そして、アンケートの最後に、悩みを聞く窓口があることを記載しています。「何かあったら、人事が1:1でお話を聞きますよ。家庭環境のこととか、健康のこととか、何でも結構ですよ」と。そうすると、毎年5~6人は個別面談希望者が現れるんです。それも離職率の低下につながっているのかも知れませんね。 あともう1つは、アップワードフィードバックというのを半年に1回行っています。パート・アルバイトさんを巻き込んで10個の項目に○×をつけるというもので、上司の評価には反映させないお約束と、上司の成長、マネジメント力向上のためにやるんだよと、事前にアナウンスしています。例えば、店長が良かれと思ってやったことが逆効果だった施策など、正直に話してくれ、改善に繋がったことも多いです。 |
四分一:そうしたアンケート項目は社内で考えていらっしゃるんですか?今そうしたサービスをやっている会社も増えていますけど… |
倉谷:いえ、全部社内です。絶対他には頼らないようにしています。頼ったら他人の言葉になっちゃうじゃないですか(笑)。自分が信念を持って言わないと、言葉がウソになりますから。 |
四分一:倉谷さんは、1つ1つの施策に情熱を持っているから成果が出ているということがよくわかりました。またぜひどこかでご発表お願いします! 今日は本当にありがとうございました。 |