Personnel Position

人事のすがお

人事インタビュー「人事のすがお」vol.6

  • 株式会社マツキヨココカラ&カンパニー

    常務取締役 グループ管理統括 小部 真吾様

    1962年8月 兵庫県西宮市生まれ(61歳)

    1985年 株式会社ダイエー入社。人事企画室採用教育部採用教育課長・人事部人事課長

    2003年 アデコキャリアスタッフ株式会社(現アデコ株式会社)入社

    人事部人事運営課長・人事本部人事部長

    2006年 株式会社マツモトキヨシ入社。人事部次長

    2012年 株式会社マツモトキヨシ 取締役人事担当部長就任

    2017年 株式会社マツモトキヨシホールディングス 執行役員管理本部長 兼 人事部長

    2022年 株式会社マツキヨココカラ&カンパニー 常務取締役 グループ管理統括(現任)

    [ 取材: 2023年8月 ]

  • 人事インタビュー「人事のすがお」vol.6
四分一:まず、小部さん、ご出身はどちらなんですか?
小部:生まれは兵庫県の西宮市です。父親が転勤族でしたので、西宮には2年ぐらいしか居住しておらず、その後は小学校の5年生まで、幾つもの転居を経験しました。
四分一:どんな少年時代だったのですか?
小部:父親は銀行員で、定期的に転勤がありました。幼稚園の時は静岡、小学校の時は北海道の小樽にいました。小樽は、今でこそ観光地になっていますが、当時は子供ながらに活気がない印象がありました。札幌が近くにあるわりには、少し寂しい感じの街だったような記憶があります。小学校1年生から5年生の終わりまで小樽で過ごし、その後小学校6年生から大学までは東京での生活となりました。
四分一:中学高校時代は、どんな部活動をされていましたか?
小部:中学、高校と6年間、吹奏楽部(ブラスバンド)で活動していました。サクソフォーン(サックス)という楽器を担当していました。「質実剛毅」な校風の中高一貫の男子校だったので、活動内容も結構厳しいんですよ。この6年間は完全な“タテ社会”で、もう、ガッツリやっていましたね(笑)。
四分一:当時の部活動は、ほとんど休みはないですものね。
小部:ないですねぇ(笑)。楽器の演奏には腹式呼吸が大事なので、基礎体力の面でもほとんど体育会系みたいな感じで鍛えられました。
四分一:大学時代も引き続き吹奏楽を?
小部:いえ、続けませんでした。大学は法学部を専攻しましたので、一応法律を勉強しようと。…いやぁ、正直言いますと、これは私の人生での最大の反省点でもあるのですが、大学では、ほんとに勉強しなかったですね。今思えば、やはり大学時代は勉強しないとダメですね。私は専攻が刑法だったのですが、それも結局は中途半端に終わってしまって…。他の法律の分野もいろいろ勉強してはみたものの、じゃあ労働法に詳しいかというと別にそうでもなくて。社会人になる時に「学生時代に何かを深く勉強した」というのがないことに気付き、あれこれ総花的にやって、結局は全部が中途半端になってしまったという反省がありますね。今となっては非常にもったいないことをしたなと思っています。
四分一:学生時代、アルバイトやサークル活動はされていたんですか?
小部:アルバイトはやっていましたね。今の私では想像がつかないかも知れませんが、トラックを運転していました。
四分一:えっ? そうなんですか!
小部:今とは全く風景が違いますが、当時秋葉原のガード下は青果市場でした。そこの青果卸さんに委託された運送会社で、夜間から早朝の「大学に影響のない時間帯で」ということで配送のアルバイトを始めたのはいいのですが、そうは言っても早朝からの仕事だと、授業を受ける際には眠くなってしまう(笑)。だから勉強しなかったのかも知れませんね。小さいころから電車も好きだったですし、車の運転にも興味がありましたので、どうせなら大きい車を運転できるよう大型免許を取得しました。唯一、大学時代に取った資格は大型自動車免許でしたね(笑)。
四分一:どうして、その運送のバイトをしようと思ったんですか?
小部:その頃、運送系のアルバイトの賃金は高額でした。S急便のドライバーさんが当時「月収80万!」とか求人広告が出ていた時代です。いろいろな求人広告を目にしていて「トラックを運転する仕事=時給が高い」というイメージがありました。今のように「カーナビ」がない時代ですから、自分で地図を広げてルートを研究したり、曜日や日にちによって渋滞状況の違いを把握したりしましたね。元々運転は好きなので、トラックドライバーの仕事をし始めたらすっかりハマってしまいました(笑)。
四分一:将来はどういう仕事に就きたいなど、夢はありましたか?
小部:大学時代は、全く具体的なイメージはなかったですね。本当は、「検察官になりたい」という思いがあって法学部に入って刑法を専攻したつもりが、なぜか1年目で…アレ?みたいな(笑)。かと言って「司法試験を受けるっていうのは半端なことじゃないし」とか、その時はあっさり思ってしまったのでしょうね。今でも深く後悔しています。
四分一:そして、新卒でダイエーさんに入社されるんですね。
小部:はい。「何故小売業なのか?」と聞かれるとなんとも言えないのですが、当時のダイエーさんは小売業の中でも一番大きな規模の会社だったので、「自分は何がしたいのか」という答えをまだ持てていなかった私にも「業界トップの企業で働きたい」というのは、心のどこかにあったかも知れません。就職活動もあまりしていなくて、沢山内定をいただいたわけではなかったのですが、振り返ってみると、やはりダイエーさんはご縁のある会社だったのだなと思いますね。
四分一:当時、学んだことはどんなことでしたか?
小部:私は2年半ぐらい店舗勤務を経験して、その後はエリアで分かれていた事業本部制の中で、関東エリアの中にある人事に異動しました。そこから先はずっと人事のキャリアが中心となります。改めて考えてみると、ダイエーさんの人事で教えられた考え方、姿勢が今も自分の人事としてのDNAを形成したのだと思います。
四分一:なるほど…。そんな小部さんが、人事に配属されたのは、希望しての異動だったんですか?
小部:いえ全然(笑)。小売業の中ではやはり商品の仕入れが花形でしたので、「バイヤーをやりたい」という希望はありました。そんな自分になぜ人事の話が来たか全く分からなかったですが、まずは人事の入口とも言える採用担当からのスタートでした。
四分一:最初は新卒採用担当だったんですか?
小部:関東エリアの人事でしたので、店舗の中途入社やパートさん・アルバイトさんの採用を担当しました。当時は出店数が多かったので、新店をオープンさせるための採用が中心でした。
四分一:ダイエーさんの中で、小部さんの人事キャリアはどんなふうに進んでいかれましたか?
小部:採用からスタートして、次に教育担当を経験することになりました。エリアでは店舗の教育、本社に異動してからは中間管理職や経営幹部候補者を対象とした教育・研修を担当しました。そこでは経営学の大学の教授と接点を持ち、アセスメントとなるケーススタディ(演習)やインバスケットテストを一緒に作成したりもしました。その後は、人事の制度担当となり、昇格試験やアセスメントの制度を運用する…というところまでやりました。グループの物流会社の人事部門に出向していたこともありまして、労働組合対応含めた労政・厚生・給与業務に至るまで、色々な経験を積むことができましたので、人事の領域は大体網羅できたと考えています。
四分一:ダイエーさんで人事は通算何年やっていらっしゃったんですか?
小部:1985年に入社していますが、人事担当になったのは1988年頃からでした。通算で14~15年ほどでしょう。
四分一:その、アデコさんへの転職はどういった経緯で?
小部:当時ダイエーは経営状況が厳しく、希望退職をはじめとした後ろ向きの人事施策を展開せざるを得ない状況でした。このままではこれまで積み重ねてきた自分の人事のキャリアが、本来の目的である企業と個人を成長させる方向へ発展しないかもしれないと悩み始めた時、たまたま声をかけてくださった方がいて。それが、アデコ(当時はアデコキャリアスタッフ)さんの社長でした。ダイエーでの全社的な採用に関する取り組みをアデコさんと連携をしていた経緯もあり、実は以前よりお誘いをいただいていました。いろいろ悩んだ結果、社長さんのお誘いにお応えするかたちでアデコさんに2003年の4月からお世話になりました。ただ、アデコさんは私が入社した時には、もうすっかり外資系の会社になっていましたね。
四分一:外資系で仕事をすることへのとまどいなどはありましたか?
小部:例えば、外資系の場合「夏と冬にボーナスを支給する」といった日本特有の制度や施策を理解していただけないケースがあります。アデコでは確定拠出年金(DC)の導入や人事制度の再構築などを取り組んできましたが、常に「日本と感覚が違う」ことを意識しなければいけない点に少し抵抗がありました。あと、外資系なので「英語が話せる」ということが重要な人材要件にもなります。そのことは理解しているのですが、「英語が話せる人=仕事で成果が出せる人」なのかと言うと、必ずしもそうではありませんので、公正な従業員の評価ができているか疑問に思うこともあったことは事実です。そんなことで悩んでいた時に、エージェントからマツモトキヨシのお話をいただくことになります。
四分一:マツモトキヨシさんには、どんなポジションで?
小部:最初は人事部の次長で入社しました。入社前の面談の際に「自分はマツモトキヨシで何をしなければいけないのか、自分に何を期待しているのか」といった点を確認していたので、まずはその課題を解決するための制度の再構築からスタートしました。今思うと次長時代は、ある意味試用期間みたいなものだったと思います。その時のアウトプットや取り組み姿勢を評価していただいて、部長にしていただいたのかも知れません(笑)。
四分一:転職の際、マツキヨさんを選ばれた決め手は何だったんですか?
小部:やっぱり、仕事の中身でしたね。「そこでは自分に何が求められているのか」「自分はそこで何ができるのか」といった点です。アデコさんで仕事をしていた当時は、ヘッドクォーターがスイスだったので、当然のことながら本国の意向を聞かなければ進められないケースがありました。マツモトキヨシは、入社前に当時の社長と面談ができ、「現行の人事制度には課題を抱えているのだがどうしたらいいか?」など直接話して下さったので、これまでのキャリアを活かせますし、自分のやるべきことが見えてきたのが大きかったですね。あと、外資系じゃなかったことも良かったかな(笑)。もちろん外資系を否定しているわけではありませんので。マツモトキヨシへは2006年冬に入社し、もう17年になります。
四分一:今までのお話を振り返ってみると、小部さんが人事の基礎的な考えや知識を身に付けられたのはダイエー時代ですか?
小部:正しく身につけられたかどうかはわかりませんが、人事としての基礎を築いたのは、やはりダイエーさんでの人事経験が中心でした。
四分一:社内に、お手本になるような人事の先輩がいらっしゃった?
小部:当時のダイエーには、見本となるような人もいれば、反面教師になるような人もいました(笑)。先輩からは必ずしも「正解」だけでなく、「この場合はこうしなくてはいけないな」という点も学びましたね。業務を覚えていく中では、決して丁寧に手取り足取り教えてもらえるというものでもなくて、自分で考え、自分でやらなければいけないという環境でしたので、それがかえって自分にとっては良かったのかも知れませんね。
四分一:小部さんは、ずっと勉強を続けていらっしゃいますね。
小部:そうですね、例えば、労政の仕事をやるにしても、どうやって労働組合と接していったらいいのか…から考えますよね。スタンスだとか。最初は見様見真似かも知れないですが、苦労しながら対話を続けていき、考えていく中で、徐々にわかってくるものってあります。
四分一:そういう時のインプットって、書籍からが多いですか?
小部:最初から本を読むことよりも、実際の業務で、ある程度の経験や知識を高めた後に本を読む方が効果的だと思っています。実際に仕事をする中でも、「ああ、あの人が言っていたことはこれか」とか「これが正しかったのか」とか、後からより理解度が高まります。
一方、外部のセミナーを受講したこともありましたが、皆さんそれぞれ自分の会社に合った施策を行っているわけで、それがそのまま当社で通用するかといったら難しい部分もありますよね。ただ「当社に置き換えたらこうできるかも」など、気付きやヒントをいただけることは多々ありました。
四分一:セミナーと言えば、プロデューサー講座の講義の中でも、小部さんがマツキヨさんに入られてから、今に至るまでのお話をじっくりお聞きしたいと思っています。では、少し話が逸れますが、最後に、仕事以外での小部さんのお話をお教えください。
小部:う~ん…ないですねぇ(笑)。正直、まだ仕事に取られている時間というのが多くて。「常に仕事のことを考えている」って感じで。これはもう、自分の性格上仕方ないと思っています。これを言うと結構嫌われてしまうのですが「趣味は仕事です」っていつも言ってて (笑)。
あ、もっと言うと、ワーカホリックかも知れません。ずっと仕事のことを考えてないと不安でたまらないのですよね。時間とお金をかけて集中して行う趣味やスポーツとか、「どっかに行ってのんびりしましょう」というのは無理です。性分だから仕方ないです(笑)。もうね、「自分という人間は、そういうものだ」って、割り切ってしまった。そうしたら非常に楽になりましたね(笑)。
休みの日でも、人事関連やマネジメント関連、最近では経営指標や企業価値の本を読んでいます。人事の領域だけではなく、経営指標や資本政策関連の書籍に触れると、今まで使ってこなかった言葉も出てきて勉強になります。 今まで人事のキャリアが長かったわけですが、その領域を超えて、例えば「会社の数字を見て分析する」こともあらためて勉強しています。最初はわからなくても、後から実際の業務や現場での出来事に当てはめてみると、答え合わせができたりするのですよね。

あ、趣味の話ができてなくてすみません!
やっぱり「趣味は仕事」ですかね。 (小声で)嫌われちゃうんだよな、こういうこと言うと…。
四分一:やはり、常に仕事のことを真剣に考えて、学び続けていらっしゃるからこそ、人事領域のみならず、管理全体を任される立場になっていらっしゃるのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。